ただ一人

なんだよ あの野郎。
先程からに声をかけているのはドラクロワとかいう男だ。
を壁に追い詰めて、手で逃げ道を塞いでいる。
話ではなかなかモテるそうだ。それにしても…

「顔近付けすぎだろ」

思わず声に出してしまった。
慌てて辺りを見渡すが、周りには聞こえていなかったようだ。
視線をに戻す。やはり二人の顔の距離が近い。
これからキスでもしそうなほどだ。見てるこっちが恥ずかしくなる。
と、普通の人は思うだろう。だが、宏海にとっては、いらだたしいだけ。
これでが嫌がっていれば、止めに入ることもできたが…
は平然とした顔で、楽しそうに話をしている。
それがまたイライラする。

と、その時。ドラクロワがの顎と手首を押さえ付け、無理矢理にキスを迫る。
流石に我慢の限界だ。叫ぼうとしたと同時に背後から眼鏡の男が彼の肩を掴んだ。
「その辺にしたらどうです?嫌がってるじゃないですか」
「ちっ…」
小さく舌打ちをして、わかったわかったとから離れる。
眼鏡の男が軽く頭を下げて謝り、その場を去っていった。
残されて唖然とする。ちょっと文句でも言ってやろうと思い、 は、わーわーと泣き出した。
「ちょっ!
「った…こわかった…」
…」
「手を掴ま、れた時…すごく怖くて、…」
ワイシャツを強く握りしめる。だがその手はとても弱々しい。
「やだ…宏海じゃない、と…やだ…っ」
切れ切れに言い続ける。
叱ってやろうと思っていたが、こんなこと言われちゃあ叱るわけにもいかない。
そのかわりに強くを抱きしめた。
頭や背中をそっと撫でてやる。
「もう平気か?」
「ぅ、ん…」
頬を伝う涙をキスで舐め取り、そのまま唇を深く重ねる。
の手に力がこもるのがわかった。
服を引っ張られると、自分を欲してくれているような気がして、妙に満足した気分になる。

「もう俺から離れんな」
一人にさせっと男共が寄ってきやがる。
「うん…」
は誰にも渡さねェ。