傍にいて

「ほら、頼むからいうことを聞いてくれ」
嫌がる私を無理矢理引きずり歩くこの男はランチア。 骸の回し者だ。(!) 今日の朝。私は骸とケンカした。 だからヘルシーランドを飛び出した。 そしたらランチアが私を連れ戻しにきた。 たぶん骸に頼まれたんだろうけどさ。
「何故そんなに帰るのが嫌なんだ」
「なんでもいいじゃない!!帰りたくないの!」
「そうは言われても…連れて帰らんと骸が…」
「(ムスッ)」
私は手を引くランチアの手を、思いっきり振りほどいた。 別にランチアに腹が立つわけじゃない。 だけど、骸の命令で私を連れ戻しに来たってことが… ランチアの意志ではないというが…気にくわなかった。
「ランチアも千種や犬と同じじゃない!!」
…?」
「私のことなんて考えてもくれないで!」
私は涙が零れそうになるのを必死に堪えて、その場から逃げ出した。 走って走って、ずっと走った。もうランチアの足音も聞こえない。 走ってるうちに雨が降ってきたけど、そんなのはどうでもよかった。 気づいたらもう夜になってた。 私は雨に打たれながら、近くの公園のベンチへと腰掛けた。 なんだかすごく悲しくて、寂しくて…。 もっとたくさん雨が降ればいいと思った。 雨がその悲しさを洗い流してくれるような気がしたから。 私が骸とケンカした理由。 それは骸から呼び出しを受けたのが、事の始まりだった。

*****

「用事ってなあに?」
「……」
「骸?」
…僕のものに…」
「はい?」
「僕のものになってください」
骸はそれだけ言うと、ソファーに座っていた私を押し倒してきた。 それから何度も何度も…キスされて……。 だけど、私は骸のものにはなれない。なぜなら私はランチアが好きだから。 それを知ってか、骸の顔はどこか切ない。 骸が嫌いなわけじゃない。でも愛してるとかそういう感情はない。 そう言ったけど、骸はキスをやめようとはしなかった。 だからなんとか抜け出して、そのまま逃げた。

*****

そのことを思い出してたら、いつの間にか泣いてた。 雨も降ってるからよくわからないけど、確かに目から涙が出ているのがわかる。
「何してんだ!」
突然背後から声がしたと思ったら、そこにはランチアがいた。 雨に濡れて髪も服もずぶ濡れ。 今までずっと私を探してたの? この雨の中…傘もささずに…バカだなぁ…。
…?泣いてるのか?」
「……」
「…そんなに帰りたくないのか?」
「…別に…そうじゃない…」
「じゃあ…」
「ランチアはさ、骸に言われて来たんでしょ?」
「ああ…まぁ…」
それを聞いたら余計に涙が出てきた。もうだめ。これ以上しゃべれないよ。 私はまた逃げようとベンチを立ち上がったが、二度も同じ手は通用しなかった。 今度はしっかりと腕を掴まれて、振り切れそうもないや。
「はなっ……して……」
…」
「どうせランチアだって…「違う!!」」
「オレは骸の命令がなくったってお前を連れ戻しに来ていた」
そう言ってランチアは私の腕と引っ張って、思いっきり抱きしめた。
「オレが…に戻って来てほしと思ったからだ」
「…っぅ」
「骸に何か言われたのか?」
「私…骸にキスされた…の…」
「っ!?」
「『僕のものになれ』って…」
「……それを断ったら…キスされ…て…っ」
また泣きそうになって、下を向こうとしたら、強く顎を掴まれた。 それから頭を手で押さえつけられて、柔らかいものが唇にあたった。
「ん…」
ちょっと強引だったけど、すごく温かかった。 そのあと思いっきりまた抱きしめてくれた。
「何故早く言わない…」
「ラン…チア…」
「オレがいるだろ?」
「骸にはオレからも話をつける。だからもう泣くな」
「う…ん…」
「やっと笑ったな。それじゃあ帰るとするか」
優しく頭を撫でてくれるランチア。 私はこの手が大好き。大きくて温かい手。 雨上がりの夜道を歩きながら、私はランチアに尋ねた。 これからも傍にいてくれる?…と。 そしたら「ああ」ってニッコリ笑って答えてくれた。 ランチアの笑顔を見るとすごく心が落ち着く。 ランチアがずっと傍にいてくれるなら… 骸に何言われたって、私平気だよ?だってランチアが助けてくれるから。