憎悪

ファミリーを抜け出して二日。今日も外で野宿だ。
寒い夜を、小さな身体を寄せ合って、必死に寒さに耐えていた。

真夜中。啜り泣くような声で千種は目が覚めた。
辺りを見渡すと、暗闇の中に二つの光る目があった。
「犬?」
「か、きぴ…」
泣きそうな顔をして、ガタガタと震える犬。
頭を抱えるその手は大きく、豊富な毛で覆われていた。
「犬、…それ…」
「う、ぅ…」
ファミリーを抜け出してから犬の様子はずっとおかしかった。
何かに怯えてるみたいで、夜になると一人でどこかへ行ってしまう。
でもその原因はこれだったのだ。
「勝手に…変わっちゃうんら…」
犬は大きな爪と牙を持ち、髪はライオンの鬣髦のように茶色になっていた。
その姿はファミリーの研究室でも見たことがある。
あの時は歯に何かしているようだったが…。
「犬…だいじょう「近づいちゃダメらっ!!」」
千種が犬に近づこうとした瞬間、大きな手が腹部の服をバッサリ切り裂いた。
「っ…」
「柿ピ…っ!!」
「平気、かすっただけだから…」
「ごめん…力を抑えられなくて…」
ガタガタ泣きながらと震える犬を、千種はどうすることもできなかった。
何かしてあげたいのに、何もしてやれない。
視界が潤んできて、そしていつの間にか千種も泣いていた。

「おやおや、どうしたんですか二人して泣いて」

二人がハッと同時に顔を上げる。
するとそこには骸の姿があった。
ファミリーを抜け出した際に、やることがあるからと別行動をしていたのだ。
「むくろ、さん…」
「これは…」
犬の姿をまじまじと見たあと、にこりと笑い、犬に近づいていく。
「骸様っ!近づいたら…っ」
千種が止めようとするにもかかわらず、大丈夫、と前に進む。
その度に犬の身体はビクリと震え、縮こまった。
犬の数メートル手前で止まり、ゆっくりと目を閉じる。
それを悟った千種は、同時に骸に駆け寄り、身体を支える。
途端に骸の身体は崩れ落ち、千種の方へと傾いた。
「骸…様…」

……

しばらくすると、犬の丸まっていた背中がすっと伸びた。
「もう大丈夫」
「骸様…」
「この程度なら僕の力で抑えられます」
犬の左目には”六”という字が刻まれていた。
骸が犬の身体に★憑依した証拠だ。


「ん…」
「目が覚めましたか?」
「あ…」
「助けてもらったんだよ。骸様に」
「……」
表情を曇らせて下を向く犬。何もしゃべらない。

「何も悪くないんですよ」

「ぇ…」
「犬は悪くないんです」
ポンと犬の頭に手を乗せて、優しく微笑む。
その途端に犬の目からは涙が溢れた。
「千種の怪我も大した傷じゃないですし」

「悪いのは全てマフィアなのだから…」

だから僕はマフィアを憎む。
僕を、千種を、犬を、苦しめた奴らを憎む。

END