意地

「おっはよー宏海!」
「あぁ…おはよ」
太臓に挨拶しつつも、その視線は太臓には向いてはいない。
気になるのはその後ろにいる悠だ。
ここ最近、宏海は悠と全く身体の接触をしていない。
それどころか、キスも、抱き合うことすらしていない。
別に喧嘩をしたわけではないし、二人の関係も今まで通りだ。
ただ違うのは、そういう関係がなくなったということだけ。

そうなったのは簡単なこと。悠が手を出さなくなったからだ。
今までは悠が仕掛けてきて、あとは流れで最後までやっていた。
だから宏海が自分から仕掛けることはなかった。
それが突然、悠が何もしてこなくなった。
悠とキスをしたい。交わりたい。今まではそう感じることがなかった。
そう思う前に悠が動いてくれていたから。それなら自分から仕掛ければいいことだ。
わかってはいるが、宏海は自分からいくことに抵抗を感じていた。
悠が好きだって、自分でもわかってるのに。
言葉にすることも、行動に起こすこともできない。
だが日が経つにつれ、宏海の気持ちは大きくなる一方だった。


「んじゃ、また明日な!」
「おう……あ、あのっ…悠!」
学校帰り。去ってゆく後ろ姿に、宏海は思わず悠を呼び止めてしまった。
特に用事もないのに。太臓もいるのに。
悠と太臓が振り返る。何か言わなくちゃ。……でも何て…?
「何か用か?宏海」
「いや…そ、の…」
「……」

「王子、先に帰っててくれませんか?」
「え?悠は?」
「ちょっと宏海の家に忘れ物をしてしまって」
「それなら俺も…」
「うちに一緒から借りたエロDVDが用意してありますよ」
「俺先帰るわ!!」
悠の一言で、太臓は一人さっさと帰ってしまった。


「忘れ物って…んなもんあったか?」
「いや、ない」
「は!?それじゃあなんで…」
「はぁ…鈍い奴の相手は疲れるな」
「なっ…!」
怒鳴りつこうと悠の方に体を向けた途端。
宏海は凍り付いたように固まった。悠の横顔、いつもと全然違う。
すごく悲しい、今にも壊れてしまいそうな顔。

「気が失せた。やっぱり帰る」
一歩踏み出そうとした悠の腕を、宏海は無意識のうちに掴んでいた。
悠は驚いた様子だったが、宏海は気にせず家の中へと引き込んだ。
バタリとドアが閉まると同時に、悠の鞄が落ちる。
「こ…み…?」
後ろから小さな体を強く抱きしめ、首筋にに顔を埋めた。
「…離せ」
「……」
「今まで何もしてこなかったくせに」
「悠…?」
「自分から仕掛けるほどじゃないってことだろ。俺相手じゃ…」
「え…ちょ…っ!」
宏海の手を振り払おうと、手を強く引く悠。
なんだか拒否られてるみたいで、心臓にちくりと痛みが走る。
「離せ宏海っ」
「ま、待てよ!俺は ただ…」
勇気がなかっただけだ。
俺は授業中も、帰宅後も、いつだって悠のことばかり考えていた。
考えるだけで行動に移せなかった。だけど今は…違う。

舐めるように髪にキスをしながら、耳たぶを唇で挟み込んだ。
「ん…」
思いの外柔らかくて、宏海は夢中で耳を攻め続ける。
振り返ろうとしたその顎を掴み、唇を重ね、舌が嫌らしい音を立てて絡み合う。
宏海を拒んでいた悠の手も、今は促すように服の裾を掴んでいる。
「…悪かったよ」
「……」
「だから、今まで溜まった分解消させてやる」
「…まったく、勝手な奴だな」
解消したいのはお前の方だろ?宏海

END