亀裂

これは現実だろうか。それとも夢?いや、夢だと思いたい。あいすから告げられた言葉 に、俺は自分の耳を疑った。

太臓と悠は間界へ帰ったわ

頭が真っ白に なった。いつもなら学校に着くと同時に女子の悲鳴と太臓の雄叫び、そしてそれをビデオ に収める悠の姿があった。だが今日はない。鞄も机になかったので、ちょっと気になりつ つも大して意識はしていなかった。そんな時にあいすから告げられた事実。

太臓 と悠は間界へ帰ったわ

「チッ…」
小さな舌打ち。ずっと望んでいたことな のに、何故か喜べない。今まで散々人のこと振り回したくせに。何かあるとすぐ俺を頼っ てきたくせに……。

俺のこと好きって言ったくせに

所詮あれも戯れ言にす ぎなかったのか?あいつにとって俺はその程度の奴なのか?考えれば考えるほど腹が立 つ。そして虚無感がどっと押し寄せてきた。授業を受ける気にもなれず、屋上へと足を運 んだ。見慣れているはずの屋上が、いつも以上に広く感じるのは気のせいではない。今こ こには、何も知らずに激辛弁当を食べる王子も、そんな主人を茶化して面 白がる従者もいない。たったそれだけのことなのに、普段騒がしい屋上が恐ろしいまでに 静かだ。何かが足りない。俺はこんな生活を望んだわけじゃない。大きな溜め息を一つ。 そして宏海は眠りについた。

*****

あれから一週間。宏海はまた以 前と同じように、喧嘩をし、授業をサボり、好き勝手に生活していた。今日も授業をサ ボって屋上へと向かっていた。いつもの様に寝転がり、ぼーっと空を眺めている。と、小 さな音だが、足音が近づいてくるのがわかった。その瞬間、聞き慣れた声が後ろからとん できた。
「宏海」
「!!」
「よっ」
驚いて振り返ると、そこには片手を挙げて、にっこりと笑う太臓がいた。
「おまっ…どうして」
「ちょっと宏海に用があってさ」
「用事だ?」
「あのさ…ちょっと間界来てくんね?」
内心嬉しかったのかもしれな い。会えたことに。また自分を必要としてくれたことに。だけど宏海の口から出たのはそれとは全然違う言葉だった。

「けっ、何を今さら…」

(何も言わずに帰ったくせに)

「何だよ〜拗ねてるのか?」

(拗ねてなんかねえよ)

ごめんごめんと謝る太臓。なんだか様子が変だ。そういえば悠 の姿が見当たらない。いつも金魚の糞のように太臓と一緒にいるのに。そのことを聞こう と口を開きかけた瞬間、太臓が先に口を開いた。
「悠のことなんだけど…」
急に太臓の表情が曇り出した。こんな真剣な太臓の顔を見たのは初めてだ。宏海 は息を呑み、彼の話に耳を傾けた。
「宏海、お前悠に『好き』って言われたか?」
瞬間、宏海の心臓が大きく跳ねた。

*****

そう、あれは太臓たちが帰る前日のことだった。屋上でゴロゴロと寝ていると、ガチャリと扉が開く音がして、そこには 悠の姿があった。やはりここにといたか、と近づいてきて宏海の隣に腰を下ろす。
「よう、どうしたんだよ」
「宏海」
「あ?」
膝立ちの形で悠の顔がゆっくり と近づいて、腕が首に巻き付いてくる。まさか、と思った瞬間、唇に柔らかいものがあ たった。ほんとに一瞬の出来事だった。すぐに離れて、悠が一言言った。
「俺は宏海 が好きだ」
突然のことで思考が働かない。何か言おうにも、口がぱくぱくと動くだけ で声が出てこない。そんな宏海を見て、悠は微かに微笑んだ。初めて見た。悠が口角を上 げるところを。そしてこんなに悲しそうな表情も。宏海の口から声が出た時には、もう悠 の姿はなかった。

*****

「まぁ言われてなくてもいいや。間界に来 てほしいんだ」
悠のために。
よくわからなかった。太臓の言ってることが。だけど… 悠に逢いたい。宏海は太臓に連れられ、間界へと向かった。

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続く予定だけど大丈夫かな…笑
ちょうど本誌の最終話と書いた時期がかぶった…OTZ