兎と狼

「わっ!!ご、ごめんなさい…」
躓き転びそうになる体を優しく抱き抱える男。
「大丈夫ですか?」
眼鏡をしていて、とても綺麗な顔立ちだ。
やけに顔が近いと思ったら、抱き抱えられたままだった。
慌てて離れようとした瞬間、何かが横切る。
「っ!!!」
「ど、どうしたんですか?!」
「あ、あれ…」
顔を男の胸に埋めたまま、震えた手で指差したのは…
「え…猫?」
「私猫ダメなのっ」
男の服を強く掴んで必死にしがみつく。よぽど猫がダメなのだろう。
「大丈夫、もう行ってしまいましたよ」
そっと背中に腕を伸ばし、優しく抱き抱える。
「はぁ…、…あっ!?すみません!!また…」
一度ならず二度までも…。
すぐ離れようとしたが、何故か身体が動かない。
背中に回された手に少し力がこもり、二人の身体が密着する。
「あ、あの…」
「貴女、お名前は?」
「え…?…で、す……
さんですか」
背中に回した腕を緩め、優しく微笑む。
「僕は仁露と申します」
また優しく微笑む。心臓がドキリとした。
これからは気をつけてくださいね、と言い残し一礼すると、教室へ向かって歩き出した。
「あの…」
「はい?」
 ドクン
「あ…ありがとうございました」
「どういたしまして」
 ドクン
「それと…先程は失礼しました」
「え…」
彼を見るたびに心臓の音がドクドクと早くなる。
”先程は”…ということは、勘違いじゃなかったんだ…背中に回されたあの手は。

*****

「おい」
「おや、どうしたんです?こんなところで」
「そりゃこっちの台詞だ。お前も隅に置けねえ〜な〜あんなイイ女捕まえてよ」
「見てたんですか…」
「まーな」
っていうかあそこじゃ誰に見られてもおかしくないぞ、と楽しそうに笑うドラクロワ。
「あたなも彼女を狙ってるんですか?」
「いや、お前の獲物に手を出す気はねーよ」
「そんな獲物だなんて」
レディーを獲物なんて言うものじゃありませんよ。
まぁ逃がすつもりなんてありませんが。
狼から逃げ切れるうさぎなんていませんしね。

END

良い人にするつもりが、なんだか腹黒そうな感じになってしまった…笑